長い間知りたいなぁと思っていてそのままにしていた沢山の疑問の一つに、かつてアフリカにあったポルトガル植民地の解放闘争があった。最近藤沢周平ばかり読み重ねていた反省(※1.)に立ち、地元の図書館で関連図書を探してみた。そして最初に手にしたのが、故 芝生瑞和著「アンゴラ解放戦争(※2.)」だった。
芝生瑞和氏は、特に中東、中南米、アフリカ諸国を中心に紛争地帯や発展途上国の政治経済体制から欧米の政治動向まで、幅広く活躍した日本を代表する国際ジャーナリストである。惜しまれつつも’05年に急逝されたそうだ。この本は氏が上程された初期の本で、海外留学期に触れたアフリカでの民族解放闘争を追ったレポートであり、この本には氏のバイタリティあふれる取材精神を強く感じられる作品となっている。
この本の素晴らしいところは、結果的にアンゴラ独立の基礎となったMPLAによる東部解放区づくりの段階から現地に入って体験し、ポルトガルのカーネーション革命による独立過程における内戦状態の生のレポートであることだ。
'70年代のアンゴラは、鉱山資源を多く産出しポルトガルにとっても手放したくない植民地だった。数十万に上るポルトガルからの植民者と産業を護るとの口実に軍隊を派遣していたが、’74年に起こった国軍運動(MFA)によるカーネーション革命によってサラザール=カエターノ独裁政権(エスタド・ノヴォ)が崩壊し、革命政府が海外植民地の放棄を宣言することで独立が約束された。しかし・・・
'70年代のアンゴラの独立戦争期は典型的な大国の代理戦争と云われ、米中ソ南アらが泥沼の援助と足の掛け合いをしたことで知られる。社会主義を志向するMPLAには旧ソ連とキューバ、そして独立して間もないアフリカ民族諸国が支援し、USは当初傀儡政権を立てていた隣国ザイールを経由しFNLAを支援し、FNLA 衰退後は部族主義的な色彩のUNITAを支援。当時ナミビアを属国化し鉱山資源を独占していた南アは、資源的野望と社会主義の南下を恐れ、中国に近いアフリカ諸国や西欧諸国と共に後押しした。また社会主義の路線闘争を繰り広げ、当時反ソ色の強かった中国やルーマニアも当初FNLA、後にUNITAを支援するという“敵の敵は味方”を字で行く悲しい代理戦争となっていた。
この本はまさに泥沼の内戦=大国に翻弄される戦争の真っ最中のアンゴラをレポートした貴重なものだ。
この本を読み進んだ末に、実際の解放闘争とはどんなものだったのだろうと考え、他の書物を探したところ、「森と精霊と戦士たち ギニア・ビザウ、モザンビーク、アンゴラ解放闘争写真記録」という写真集に辿り着いた。この写真集は、副題にもあるように、在アフリカ旧ポルトガル植民地の解放闘争を解放勢力側から記録されたものだ。主にギニア・ビザウとモザンビークの闘争の写真が掲載されているが、これはこの本がフリカ行動委員会から発行された時期(’70年代中盤)が、ちょうどギニア・ビザウとモザンビークが独立を果たし、またアンゴラは独立を果たしたものの国内の解放勢力が分立して(※5.)、実質的な統一政府がなかったことに由来する。この写真集の中で紹介されているアンゴラの解放闘争の写真には、芝生瑞和氏から提供されたものがあった(氏が「アンゴラ解放戦争」執筆前)。これは解放闘争側から撮った写真だから当たり前ではあるが、森林地帯でのキャンプ生活や戦線の様子や解放された農村部での農民たちの生き生きとした表情や生活ぶりが伺えて貴重な写真集だった。ほんの30年前、アフリカでは自由と独立を勝ち取るために闘争し倒れていった数多くの無名戦士がいたことを忘れてはならないだろう。
また、この旧ポルトガル植民地の独立は、ポルトガル本国の独裁政権を民主派将校たちの蜂起による民主化クーデター(カーネーション革命)によって実現したことであること。これは旧ポルトガル植民地における持続的な解放闘争が、現地に派遣され殺し殺されるポルトガルの軍人たちを悩ませ、国家財政を苦しませ、国際的な信用を落としめた結果などだという成果と云えるだろう。密林での地道な解放闘争が解放区を拡げ、結果的には本国の軍人や市民をも包囲したことは、解放闘争に協力したすべての人々に賞賛を捧げたいと思う。
※1.’08年の後半(06-12月)に読んだ本40冊のうち、実に18冊が藤沢周平ものだった。
※2. 書名:アンゴラ解放戦争、著者:芝生瑞和、発行:岩波書店/岩波新書、発行日:1982/06/25.
※3. アンゴラ独立時の国内勢力(※5.)は、US、NATO諸国、南アフリカ、ザイールそして中国などが支援し、部族主義的な色合いが濃かった。FNLA、UNITAと、当時のキューバをはじめとする社会主義国やアフリカ諸国が支援し、部族主義を排したMPLAがあり、最終的にはMPLAが解放区を全国に拡げ、国際的に承認されることになる。
※4. 書名:森と精霊と戦士たち、著者:アフリカ行動委員会、発行:亜紀書房、発行日:1976/06/10.
※5. アンゴラの解放組織と支援国(FNLAとUNITAへの支援国は時代的に変動あり)
・MPLA(アンゴラ解放人民運動):ソ連、キューバ、スウェーデン・・・社会主義を標榜したが社会主義陣営の崩壊後穏健に。独立後'09年春現在に至るまで政権を維持している
・FNLA(アンゴラ民族解放戦線):US、旧ザイール(現コンゴ民主共和国)、アルジェリア、ガーナ、イスラエル、フランス、ルーマニア、中国、南ア・・・ホールデン・ロベルトを指導者とし北部部族を中心に勢力をもった。'09年春、国会に議席を持つ
・UNITA(アンゴラ全面独立民族同盟):US、南アフリカ、中国・・・FNLAから分かれたジョナス・サビンビを指導者に、主に南部地域を中心に勢力をもった。社会主義を標榜したMPLAの政権奪取を好まない全ての国と宝石会社デ・ビアスの援助で長く内戦を続けた。ジョナス・サビンビの私設軍隊的性格の集団で現在消滅。